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したがって、本研究は、女性語「わ」の文法的性格を論じるにあたっては、
まとまった数の用例を対象とし、かつ、使用者の表面的な人物像を離れて、女 性語「わ」の使用状況を、構造的に分析していくことが重要であると考える。
ここまでは、文法書に示された見解、及び、ジェンダー論的な観点による先 行研究の概観であった。この他にも、江戸後期から大正にかけての歴史的変遷 に関して、松崎(2017)の言及がある。
2.4 歴史的変遷に関して 2.4.1 松崎彩子 (2017)
松崎(2017)は、江戸後期・明治・大正の各時代に書かれた文学作品を対象に、
男女差、原形と音訛形5の使用実態の差、地域差という観点から、終助詞「わ」
の使用状況の変遷について調査している6。その点で、女性語「わ」を論ずる本 研究にとっては、直接の先行研究ではないのだが、女性語に限らず、終助詞「わ」
全体について確認する意味で、これを取り上げることとしたい。
次頁の図2‐1 は、明治時代の男性が使用する「わ」と女性の使用する「わ」の 使用回数に関するものである。
5「音訛形」とは、「拵へてやるわ」→「拵へてやらア」のように、活用語のウ段の語尾に「わ」
が付いてア段の長音となったものを指す。
6 松崎(2017)では、単独の「わ」に加えて、「わえ」「わさ」「わな」「わね」などの複合助詞
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図2‐1 男女差
〔松崎(2017):19 図 7 引用〕
松崎(2017)は、明治から大正にかけて、女性の「わ」の使用が男性の 7~8 倍 と、その割合の高さを指摘している。従来、終助詞「わ」は明治中期頃の「て よだわ言葉」を皮切りに、女性に特徴的な特有の終助詞として位置づけられて きたが、それがこの図にも表れていると言えよう。
さらに、松崎(2017)の調査によれば、江戸後期から明治に近づくにつれて、
女性による「わ」の使用回数が増加していく傾向が認められる。江戸後期の洒 落本と滑稽本では、それぞれ男性と女性が使用する「わ」の割合が等しいか、ま たは男性の方が女性を上回る傾向が認められるのだが、江戸後期から明治初期 の人情本では、女性の使用が男性の使用よりも 4 倍も上回っているというので ある。
次いで、下記の図2‐2 では、「わ」の原形と音訛形の使用回数がまとめられて いる。
図2‐2 原形と音訛形
〔松崎(2017):18 図 8 引用〕
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図 2‐2 に基づけば、女性の原形使用の割合が 98%に対して、音訛形の使用の 割合は 2%。一方の男性の場合は、原形使用の割合が 31%、音訛形の使用の割 合は 69%ということになる。このように、男性は音訛形の使用が多く、女性は 原形の使用が多いという傾向が認められる。
さらに、次の表 4 は、明治から大正時代にかけての、東京語の「わ」と関西 方言の「わ」の使用状況がまとめられたものである。
表4 明治から大正にかけての地域差
〔松崎(2017):19 表 7‐1、7‐2 引用〕
東京語の「わ」は、男性132 例、女性 1145 例であるが、関西方言の「わ」の 場合は、男女ともに使用数が0 と、「わ」を用いる傾向が低いことがわかる。
このように、松崎(2017)は、終助詞「わ」の用例を大量に収集して調査を行 っており、女性語「わ」を、より広い視野から考える際には有益なものである と言える。しかし、女性語「わ」、ひいては「わ」という終助詞が持つ文法的性 格に関しては一切言及されていないのであった。
ここまで第 2 章では、明治時代の女性語「わ」に関する先行研究を確認し、
その問題点について述べた。以上をふまえて、次章では、女性語「わ」の実例 の分析を進めていく。