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実例の分析 - C「否定的判断」が生じる責任の所在 -

立 政 治 大 學

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一しょにお咄しをするワ」とバタバタたべながらかけて行く。

『藪の鶯』

例(26)は、ドリンコ―ト侯爵のヱロル夫人に対する扱いが酷いと、侯爵の妹 であるロリーデル夫人が侯爵を非難している場面である。ここでのロリーデル 夫人は「侯爵がヱロル夫人のことを大切にしていない」ことに対して、「否定的 判断」を下しているわけである。そして、ロリーデル夫人は、その「否定的判 断」をふまえて、「侯爵がヱロル夫人を大切にしないならば、ロリーデル家にヱ ロル夫人を迎えよう」という判断を提示している。つまり、この女性語「わ」

は「否定的判断」を背景に、そこから新たに展開された判断に接続する例だと 考えられよう。続く例(27)では、お宮が、婚約者である貫一と別れ、別の男と の結婚を決める。そのことへの申し訳ないという思いが、ここでの「否定的判 断」であるが、それをふまえて、お宮は「会わせる顔がないので、貫一には会 わずに嫁に行く」という判断を、母親に提示している。つまり、ここでも女性 語「わ」は「否定的判断」を背景に、そこから新たに展開された判断に接続す る例だと考えられるわけである。最後の例(28)は、女学生の宮崎と斎藤が話し ている場面である。宮崎が、変な話をしてくる斎藤に対して、やめるように言 うと、斎藤は、それなら宮崎の代わりに相沢を連れてきて会話をすることにす ると伝える。つまり、斎藤は、宮崎の発言に対して「否定的判断」を下し、そ こから展開される「宮崎の代わりに相沢を連れてきて会話をする」という判断 を提示している。そのような判断に女性語「わ」が接続しているのである。

3.5 実例の分析 C「否定的判断」が生じる責任の所在

-3.5.1 【C イ】 「否定的判断」が生じる責任の所在が「話し手」

(29) (花)「春から斯うして寐てお出なさるのに、先月お歸朝なさる筈の、兄さ んの音信ハ知れないし……次の便にはお歸朝なさるそうだけれど

……お蝶さんの髪置はもう明後日なのに、床上も出來ないのだもの を。そんな事がなくつてさへ、私は先年の病氣の時には、どんなに 悲しかつたか知れないものを。嘸心細くて殘念だろうと思ふと……。

私はどうしたんだろう、斯樣事を姉さんの前で云ふなんて、氣がき

‧ 國

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かなかつたわ。」

『殘菊』

(30) (宮)「どう遊ばして。」

(相)「あの斎藤さんにスナッチされようとしたわ。あのお芋をネ。西村さ んにもらってたべていたら。斎藤さんが来てとろうとするのだもの。

いやな人ヨ。」

(斎)「ダカラ私しがカステイラを御馳走をして上げようから。とっかえこ にしようといったのだワ。」

(相)「オヤ斎藤さんがほんとのことをいったの。ここにカステイラがある ワ。じゃアこれを上げよう。」

『藪の鶯』

(31) (百)「貴嬢、そンなにお梳なさらずとも善くつてよ。いい加減にまるめて 置いて下さいましな。どうせ毛が少ないんだし、僻があるんですか ら、貴嬢のように、房さりと、鬢を張る譯にはまゐりませんわ。」

『乳姉妹』

例(29)は、お花が病気の義姉お香の境遇に同情し、嘆くものであるが、途中 で我に返り、自分の発言によって余計、お香に辛い思いをさせているのではな いかと、自らを咎める。ここでの、話し手の「否定的判断」とは、「お花が、お 香に対し、悲観的な発言をした」ことであるから、「否定的判断」の原因を作っ たのは、話し手ということになるわけである。続く例(30)は、相沢が斎藤に芋 を盗まれ(スナッチされ)そうになったことを、宮崎に訴える場面である。相沢 は、当初、斎藤が芋を盗もうとしていたと思っていたのだが、斎藤がカステラ と取り換えるつもりだったのだと言い、また、カステラを実際に発見したこと で、自身の発言内容が間違いであったことに気づいた。ゆえに、ここで「否定 的判断」の原因を作ったのは、話し手自身である。最後の例(31)は、君江が、

自分の身代わりにするために、百合子の髪型を自分と同じにしている。その様 子を見ていた百合子は、自分の髪だと君江と同じようにはならないという主旨 の発言をした。ここでの、話し手・百合子は、「百合子の髪質が悪い」ことに対 して「否定的判断」を下しているので、「否定的判断」の原因は、話し手自身に あるということになる。

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3.5.2 【C ロ】 「否定的判断」が生じる責任の所在が「聞き手」

(32) (本)「喜び敍に最う一ツ喜んで下さい。我輩今日一等進みました。」

(政)「エ。御結構が有ツたの……へエエー……それはマア何してもお芽出 度御座いました。」

(勢)「へー御結構が有ツたの……」

(政)「一等お上なすツたと言ふと、月給は。」 (本)「僅五圓違ひサ。」

(政)「オヤ五圓違いだッて結構ですワ。こうッ今までが三十圓だッたから 五圓殖えて……」

『浮雲』

(33) (繁)「またおとうさまに甘えているね」

(片)「なにさ、今学校の成績を聞いてた所じゃ。――さあ、これからおと うさんのおけいこじゃ。みんな外で遊べ遊べ。あとで運動に行くぞ」

……… 中略 ………

(繁)「どんなに申しても、良人はやっぱり甘くなさいますよ」

(片)「何、そうでもないが、子供はかあいがッた方がいいさ」

(繁)「でもあなた、厳父慈母と俗にも申しますに、あなたがかあいがッて ばかりおやンなさいますから、ほんとに逆さまになッてしまッて、

わたくしは始終しかり通しで、悪まれ役はわたくし一人ですわ」

『不如帰』

(34) (政)「教師を御己めなさるつて、是から何をなさる御積りですか」

(道)「別に是と云ふ積りもないがね、まあ、そのうち、どうかなるだらう」

(政)「其内どうかなるだらうつて、夫ぢや丸で雲を攫む樣な話しぢやあり ませんか」

(道)「さうさな。あんまり判然としちや居ない」

(政)「そう呑気ぢゃ困りますわ。あなたは男だから夫でよう御座んしやう が、ちつとは私の身にもなつて見て下さらなくつちやあ……」

『野分』

例(32)は、本田が、自分の役職が一つ上がったことを、お政・お勢母娘に伝 える場面である。本田は給料の上昇を「たったの」と大したことがないものと

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評しているが、一方の、お政は 5 円の差も結構なものであると反論している。

ここで、話し手・お政は、「5 円の昇給などわずかなものである」という本田の 考えに対して、「否定的判断」を下すわけであり、「否定的判断」が生じた原因 となっているのは、聞き手の本田なのであった。続く例(33)は、子供たちを甘 やかす夫・片岡の教育方針に対して、妻の繁子が、その分、自分が厳しくする 羽目になって子供たちから嫌われると、不満を伝えている。つまり、ここで「否 定的判断」の原因を作っているのは、聞き手の片岡である。最後の例(34)は、

夫の道也が仕事を辞め、さらに今後の計画も立てていないことに対して、妻の お政が文句を言っている。したがって、ここで、話し手の「否定的判断」の原 因を作ったのは、聞き手の道也ということになる。

3.5.3 【C ハ】 「否定的判断」が生じる責任の所在が「話し手・聞き手のどち らでもない」

(35) (昭)「この紅葉はみンな高雄の楓樹を移したのださうです。そのためか外 の紅葉に比べると、餘程色が善いやうですよ。」

(房)「まアさうでございますか。道理で外の楓樹より美しいやうに思ひま した。」

(昭)「どうです。北海道の方にも楓樹は沢山ございますか。」

(房)「ハイ、隨分ございますやうで、重に槭樹でございますが、明月楓な どと申しますのは、緋のやうな眞赤な色に紅葉いたします。ですけ れども彼地の紅葉は、染つたかと思ふと、すぐに散つて仕舞ひます から、なんだか本意なうございますわ。」

『乳姉妹』

(36)

(風)「驚いたね、確に間貫一!」

……… 中略 ………

(風)「(前略)然し彼奴が高利貸を遣らうとは想はなかつたが、奈何したの だらう。」

(蒲)「さあ、那で因業な事が出來るだらうか。」 (遊)「因業どころではございませんよ。」

(蒲)「随分酷うございますか。」 (遊)「酷うございますわ。」

‧ 國

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『金色夜叉』

(37) (老)「ひどい暴風雨でございますこと。旦那様がいらッしゃいませんと、

ねエ奥様、今夜なんざとても目が合いませんよ。飯田町のお嬢様は お帰京遊ばす、看護婦さんまで、ちょっと帰京ますし、今日はどん なにさびしゅうございましてしょう、ねエ奥様。茂平(老僕)どん はいますけれども」

(浪)「こんな晩に船に乗ってる人の心地はどんなでしょうねエ。でも乗っ てる人を思いやる人はなお悲しいわ!」

『不如帰』

例(35)では、房江と昭信が一緒に庭の楓を鑑賞している。房江は、楓が紅葉 してすぐに散ってしまうことを残念に思っており、このことが、(35)における

「否定的判断」の対象である。しかし、それは自然現象であるから「否定的判 断」を生じさせた責任は、話し手と聞き手のどちらにもない。続く例(36)は、

遊佐の妻と風早、蒲田が、高利貸として来ていた貫一について話している。風 早と蒲田は、貫一が高利貸の出来るような性格ではなかったため、その変貌を 信じることができない。それに対して、遊佐の妻が、貫一は非道であると訴え

遊佐の妻と風早、蒲田が、高利貸として来ていた貫一について話している。風 早と蒲田は、貫一が高利貸の出来るような性格ではなかったため、その変貌を 信じることができない。それに対して、遊佐の妻が、貫一は非道であると訴え