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筆者自身を例にすれば、今までで聞いたことのある複合語に「牛飼い」や「馬 飼い」といったものがあった。これらの例から“[[ ]飼い]”というスキーマ が抽出でき、次回“○○を飼う(行為/人間)”を言い表したい場合、そのスキ ーマから「猫飼い」や「カメレオン飼い」などの言葉が作り出せる。また、「自 転車の乗り方」として「二人乗り」という言葉を聞いたこともある。しかし、
筆者自身の経験から他の乗り方もあり、それは「片手乗り」や「両手放し乗り」
である。この二つの乗り方を意味することばは経験したがないので、スキーマ を通して名づけるのである。
4.5 動詞由来複合語の生産性
最後に複合語の生産性について検討するのだが、伊藤・杉岡(2002)では、
二種類の複合語は表 1 に示された意味や構造に違いを見せるほか、生産性にも 相違点が反映されていると述べられている。杉岡の指摘によれば、内項との複 合は規則的な語形成であり、文脈さえ与えられれば、新しい語が「可能な語」
から「実在する語」の変わることが容易だという。たとえば、国広(2002)の
「窓閉めにご協力下さい」における「窓閉め」は使用場面から「(電車の)窓 を閉めること」と感じ取られるし、次の例もすぐに意味が理解できると思われ る。(下線筆者)
(28)超能力によるスプーン曲げ
無理な機首上げが、今回の飛行機事故を引き起こした。
(コンピュータの)プログラムのバグひろい
運動会の応援では、1 年生が声出し、2 年生が手叩きをする。
暴走族によるバイクのナンバー隠し
(伊藤・杉岡 2002:130)
その一方で、付加詞との複合は語彙的色彩が濃く、レキシコン(lexicon;
心的辞書)にリストされているため、内項複合語ほど新しい語を作ることは難 しいとされている。
(29)道具+動詞:#車運び(車で運ぶ)、#ハサミ切り(ハサミで切る)
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様態+動詞:#早喋り(早く喋る)、#網採り(網で採る)
原因+動詞:#仕事悩み(仕事で悩む)、#雨濡れ(雨に濡れる)
結果+動詞:#薄伸ばし(薄く伸ばす)、#高積み(高く積む)
(伊藤・杉岡 2002:131)
杉岡は上の例はいずれも「可能な語」でも、「実在しない」語だとしている。
時々「ななめ聴き」や「片働き」115のような耳新しい表現も耳にするが、それ は質的に規則による造語とは異なり、アナロジー(XY→ZY)116による造語だと 説明されている。
杉岡の指摘にうなづくものがあるものの、筆者の考察によれば、内項だから といって、何でも複合できるというわけではない。逆に、付加詞との複合であ りながら、生産的なものもいくつか見受けられる。
最初に内項との複合を見るが、次の複合語は容認されにくいと思われる。
(30)?雪降り、*霰降り、*槍降り(影山 1993)(cf. 雨降り)
(31)*人食べ、*東京住み(Sugioka1996:)(cf. 人食い、東京住まい)
(32)(?)桜見、??桃見、??植物見、??肘掛け椅子とりゲーム、??家具とり ゲーム(cf. 花見、椅子取りゲーム)(河上 1996:35)
(33)*孫殺し、*犬殺し(斎藤 2005:)(cf. 人殺し、親殺し)
まず(30)は影山(1993)による指摘である。氏は「名詞+動詞連用形」型 の複合語(i.e. 本稿でいう動詞由来複合語)は高い生産性を持つものの、中 でも「-降る」のような結合相手を選択するものがあり、そして、そういう場 合は複合語全体がレキシコンにリストされるとしている。
次の(31)は杉岡自身117による指摘で、成立しない理由は同義語が存在する ための、阻止効果(blocking effect)によって制限されるのだという。
115 例は伊藤・杉岡(2002:131)による。
116 杉岡がいうアナロジーと筆者が考えるアナロジーは違うことに注意されたい。(筆者は
“[[ ]動詞連用形]”というスキーマを規則、前項がすべてアナロジーだと考えている。)
117 Sugioka(1996)(筆者は入手していないので、ここで言及している部分はすべて浅尾(2007)
によるものである。)
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さらに、河上(1996)118では(32)の例が挙げられ、語形成には基本レベル は複合しやすいが、上位レベルも下位レベルも複合しにくいと指摘されている。
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(1984)が提案する「仲介道具」(intermediary instrument)及び「促進道具」
(facilitating instrument)121という区別を日本語に導入し、道具でも、仲 介道具は動詞と複合できるが、促進道具は複合できないとしている。促進道具
121 Marantz(1984)に対する言及は臼杵(2008)によるものである。なお、日本語訳は島村(2006)
によるものである。
122 http://ci.nii.ac.jp/naid/110002510738/en
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遅寝、遅起きの習慣も見逃せない。123
ただし、「遅-」は「早-」よりマイナス的なイメージをもたらしやすいた め、造語力がやや弱いのも予想される。(cf. 早茹で麺/??遅茹で麺)
さて、「手-」は 3.5.1 で述べたように、現在の社会では何でも機械に頼る ので、「手で」ということはわりといいイメージを感じさせる。実は筆者は筑 波大学交換留学中にたまたま「機械練り石鹸」を見かけ、なぜ「機械で練るこ と」を強調するのかということに不思議に感じたのだが、のちに調べたところ、
次のことがわかった。
(43)機械練りは、機械力によって練り混ぜ、成型して得られる固形石鹸で あり、わく練りは、枠に流し込んで冷却固化させ、成型して得られる 固形石鹸です。現在流通している汎用化粧石鹸のほとんどは機械練り で製造されており、当社でも機械練りで石鹸を製造しています。機械 練りで作った石鹸は、水によく溶け泡立ちが良い石鹸になりますが、
やや溶けくずれしやすい性質があります。一方、わく練りで作った石 鹸は、機械練り石鹸と比べて水に溶けにくく、泡立ちがやや劣ります が、溶けくずれしにくい性質を持っています。透明石鹸は、わく練り で製造されています。124
本来わざわざ「機械で練るや作ること」を言うまでもないことを、上のよう な「有標」になった場合、やはり複合語を作れるのだろう。
(40)にある一群は前項に昼夜を表すことばが来るのが特徴的である。これ らは石井(2007)の「朝酒」や「朝風呂」に対する指摘で説明できる。すなわ ち、「本来は朝にするものではないが、あえて(特別に)朝に~すること」(石 井 2007:171)だから、有標である。
最後に杉岡がいう「質的に違う」ものを検討したい。「キャベツの百切り」
(沢木編 1989)と「立ち読み及び座り読みを禁ずる」(佐竹編 1989)、「ななめ 聴き」は指示対象がほぼ同じだから奇妙に感じられるのではないかと思われる。
123 『人生の分岐点』pp.137
124 http://www.cow-soap.co.jp/web/site-info/question/sekken/q10130.php
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「百切り」と「千切り」は幅が違っても、どちらも「細長く切られた/刻まれ たキャベツ」であり、「立ち読みと座り読みを禁ずる」というのは結局「ただ 読みが禁止される」ことになるのではないだろうか。さらに「ななめ聴き」は 杉岡自身が後ろに書いているように「早送り」という意味となっている。
もし付加詞複合語は単なる XY→ZY という置き換えだとすると、「二度寝」も「?
一度寝」から来たと考えなければならないし、「夜遊び」や「朝帰り」も「?
昼遊び」と「?夜帰り」から来たと考えなければならない125。
「片働き」については、そもそも「共働き」に対し「片働き」は無標なこと ともいえるので、わざわざ複合語を作ることはないだろう。
以上二種類の複合語の生産性を見てきたが、生産的かどうかということは、
必ずしも二種類の複合語が異質である証拠とはならないことがわかった。
4.6 終わりに
本章では複合語の多義性及び音韻構造、生産性をめぐって考察を行った。ま ず 4.3 で複合語の多義性について検討し、複合語の多義化は従来指摘されたよ うにNVNの第三項名詞による削除ではなく、メトニミーによるものだと主張 した。次に 4.4 で複合語の音韻構造について論述し、内項との複合でも、複合 語全体のアクセントが平板化するか、主要部動詞の第一音が連濁するものがあ るのを見たが、これは意味の特殊化に伴った現象だと考えられる。最後に、4.5 では二種類の複合語の質的に違う証拠として指摘された生産性も検討し、主要 部動詞にとっては内項でも、上位か下位概念を表すものは結合しにくい一方、
内項複合語ほど生産的ではないとされてきた付加詞複合語は「有標なもの」と なら、高い生産性を見せることがわかった。
125 筆者が見かけた「XY→ZY」から来たと思われ、しかも指示対象が違う例として、「二目惚れ」
があった。
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第 5 章 結論
5.1 本論文の結論
本論文は認知意味論の観点に立ち、日本語の動詞由来複合語の語形成モデル の提案を試みた。早い時期で行われた研究は動詞由来複合語をほかの複合名詞 と一緒に扱うものが多かった。しかし、複合語の中でも結合関係が様々なもの
(i.e. 一次複合語;語根複合語)と比較的に捉えやすいもの(i.e. 二次複合 語;動詞由来複合語)がある。伊藤・杉岡(2002)はさらに後者を内項複合語 と付加詞複合語と分け、統語、意味、音韻などの面をめぐって、二種類の動詞 由来複合語が違うレベルで生成されるとしている。語彙性および規則性という 二面性を考え、動詞由来複合語の研究を行った伊藤・杉岡の功績は大きいとい
(i.e. 一次複合語;語根複合語)と比較的に捉えやすいもの(i.e. 二次複合 語;動詞由来複合語)がある。伊藤・杉岡(2002)はさらに後者を内項複合語 と付加詞複合語と分け、統語、意味、音韻などの面をめぐって、二種類の動詞 由来複合語が違うレベルで生成されるとしている。語彙性および規則性という 二面性を考え、動詞由来複合語の研究を行った伊藤・杉岡の功績は大きいとい