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名づけとしての動詞由来複合語

立 政 治 大 學

N a tio na

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り、「語」である以上、必ず「文」と違う部分があると想定される。たとえば、

影山(1999)は第一章の冒頭で、次の例を挙げて比較している。

(17)a.私は山に登るのが好きだ。

b.私は山登りが好きだ。影山(1999:2)

(18)黒塗りの車

氏の説明によると、複合語表現の「山登り」は単に「山に登ること」を意味 するに止まっているのではなく、スポーツないしリクリエーション活動として の山に登ることに意味が限定されるという。同様な現象は(18)においても見 られる。(18)の指示対象はただ「黒く塗った/塗られた車」という意味のみな らず、特に高級な乗用車を指すという29。形式重視の研究では、上の現象を「語 彙化(lexicalization)」によるものだと扱われているが、認知論の立場では、

名づけ機能がもたらした特殊な意味は実は我々の経験と密接な関係に立って いると考えられ、なぜほかの意味が自動的に排除されるかは理想化認知モデル

(Idealized Cognition Model)によるものだと考えられる。

(15)を通して、従来では例外と扱われてきたものが説明できるほか、語彙 化と処理された部分も捉えることができると予期される。

3.4 名づけとしての動詞由来複合語

筆者は二つのレベルから形成されるとされてきた二種類の動詞由来複合語 を一つのスキーマから創り出されると想定した上、どちらも動詞が表す事態に 対する名づけ30と捉え直したい。すなわち、「玉乗り」は「玉に乗ること」で、

「手縫い」は「手で縫うこと」と捉えるのである。そもそも日本語の「複雑述 語」に「ぶち壊す」や「読み始める」、「泡立つ」といった複合動詞及び「毛深 い」や「聞き苦しい」といった複合形容詞が存在するのに、なぜ「複雑述語」

に使われる動詞由来複合語が名詞形となっているのかというのも興味深い疑

29 米国、プリンストン大学の牧野成一先生による指摘である。

30 杉岡は内項複合語を「動作の名前」としているが、「金魚すくい」など、「動作の名前」と してはふさわしい例もあれば、「崖崩れ」や「左利き」などといった「動作」と言いがたい例 もあるので(台湾、東呉大学の頼錦雀先生による指摘)、ここでは動詞が表す(抽象的な)事 態に対する名づけとしておく。

‧ 國

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問である。

にもかかわらず、内項、付加詞という区別をせずに、一律に「動詞が表す事 態に対する名づけ」と扱っていいのかと問い掛けたくなるかもしれない。確か に内項との複合は一つの出来事として、意味が整合しているので、「動詞が表 す事態に対する名づけ」という解釈にふさわしいが、「付加詞+動詞」型も常 に主要部動詞の目的語を文に放出しなければならないというわけではない。た とえば、「早押し」といえば、何を押すか、「夜釣り」といえば、何を釣るか、

また「輪切り」といえば、何を切るかは動詞「押す」、「釣る」、「切る」と比べ、

それほど重要ではないようである。なぜなら、これらの複合語は「名詞」だか らである。動詞と名詞の関係を(19)の Langacker(1987)の図で説明すると、

動詞は(19a.)のように出来事に関与する時間的局面を一つ一つ描写するもの で、過去か現在か、それとも未来かというテンスや開始、進行中、完了などの アスペクトを表示しなければならないし、「誰が何を」、「何がどう?」という ような動作の参与者も常に我々の念頭に置かなければならない。それに対し、

名詞は(19b.)に示しているような時間を超越する概念なので、テンスやアス ペクト情報はすべて捨象され、しかも、ふつう名詞はあるモノやコトに用いる 名づけであるため、「誰が何を」や「何がどう?」といった情報は必ずしも必 要31ではない。

(19)a. 連続走査(sequential scanning)

b. 累積走査(summary scanning)

31 政治大学の吉田妙子先生の指摘によると「犯人」のような「何の犯人?」という一項名詞 が存在するという。

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Langacker(1987:144)

これは動詞由来複合語に限って見られる現象ではなく、派生名詞、複合名詞 を含み、全ての名詞に共通する概念である。たとえば、「追い越す」なら、常 に「X が Y を追い越す」というふうに動作の参与者を一々明示しなければなら ないし、「今から追い越す」か「既に追い越した」かなどという情報も言明し なければならないが、名詞化された表現の「追い越し」は通常、(20)に示す ように「同じ方向に向かい、同じ車線を走行中の車が、後方にある車が車線を 変更し、前方にあった車を越えて走行すること」という行為を表すゆえ、「誰 が何/誰を追い越す/したか」は追究されない。

(20)“追い越し”に対するイメージスキーマ

さて、内項との複合か付加詞との複合かを問わず、形態的に名詞となってい る動詞由来複合語を一律に「動詞が表す事態に対する名づけ」としていいのだ ろうか。ここで、斎藤(2004)を引用すると、斎藤(2004)も後項が「~投げ」

の動詞由来複合語を 8 例取り上げ、筆者と同様な扱いをしている。

(21)すくい投げ→(相手を)すくうようにして投げること 背負い投げ→(相手を)背負うようにして投げること 円盤投げ→円盤(のようなもの)を投げること

ハンマー投げ→ハンマー(のようなもの)を投げること 砲丸投げ→砲丸(のようなもの)を投げること

槍投げ→槍(のようなもの)を投げること 雪投げ→雪(の玉)を投げること

輪投げ→輪を投げること

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(22)・すくい投げ:相撲の技 ・雪投げ 子供の遊びの名称

・背負い投げ:柔道の技 ・輪投げ

・円盤投げ

・ハンマー投げ 陸上競技の名称

・砲丸投げ

・槍投げ

斎藤(2004:80-81)

(21)、(22)では「内項+動詞」型と「付加詞+動詞」型が混ざっているが、

同書で言及されているように、それぞれ何に対する名づけなのかということが 重要である。「円盤を投げること」、「ハンマーを投げること」の名前として用 いられる「内項+動詞」型の「円盤投げ」や「ハンマー投げ」などに上位概念 の「陸上競技の名称」が存在するように、「すくい投げ」や「背負い投げ」な ど付加詞との複合の場合も上位概念の「相撲の技」(あるいは決まり手)と「柔 道の技」が存在する。ただし、「相撲の技」という上位概念に対応する技の名 前はまず一つしかないと考えられない。従って、動詞由来複合語か否かという ことにかまわずに、「相撲の技」に対応する名前を調べた結果、次のものを得 た。

(23)突き出し、寄り切り、押し倒し、一本背負い、上手投げ、足取り、吊 り落とし、送り投げ、合掌捻り、居反り、蹴返し、腰砕け…32

語構成は違うものの、「名前」として機能する点は変わらないと思われるの で、筆者が名詞形となっている動詞由来複合語をすべて「動詞が表す事態に対 する名づけ」とする主張は必ずしも不適切ではないと考えられる。