3.5 動詞由来複合語の機能
3.5.1 形容詞に使われる動詞由来複合語
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立 政 治 大 學
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こうして、動詞由来複合語のスキーマ的意味は「動詞が表す事態に対する名 づけ」と統一的に捉えられても、実際の意味は使われ方によって変化するのが わかり、次の節から機能ごとに考察していきたい。
3.5.1 形容詞に使われる動詞由来複合語
最初に形容詞に使われる動詞由来複合語を見る。従来の指摘では、形容詞と して機能するのは付加詞との複合の役目だとされている35。具体的には次のよ うなものが挙げられる。
(27)手作りケーキ、石焼き芋、旬摘みお茶、朝採りいちご、固ゆでたまご、
塩茹で枝豆、平積みの本、輪切り唐辛子、黒塗りの車…
(28)2 人乗りのスポーツカー、7 人がけの座席、3 階建てのアパート…
これらは動詞単独の場合(e.g. 焼き芋、ゆで卵)と比べ、「何で作った/焼い た/茹でたのか」、「いつ採ったのか」、「いかに積んだ/切ったのか」といった材 料、道具、時間、結果などの付加的情報が盛り込まれており、杉岡・小林(2001)
などでいわゆる「複雑述語」に当たっている。問題は、複合語の意味は本当に 単に「手で作った/作られた36ケーキ」、「石で焼いた/焼かれた芋」、「旬に摘ん だ/摘まれたお茶」、「2 人乗れるスポーツカー」、「3 階に建てた/建てられたア パート」に止まっているのだろうか。影山(1999)では「手編み」などの例が 挙げられ、次のようなことが指摘されている。
(29)これらの名詞要素37の働きは、「手編み」の「手で」のように手段を表 したり、「産地直送」の「産地から」のように起点を表したりと様々 であるが、複合語であるからには、何らかの付加的な意味が含意され ることが多い。たとえば「手編み」なら「心がこもっている」、「産地 直送」なら「新鮮である」といったニュアンスが感じ取ることができ
35 たとえば、影山(1999:138)に挙げられた「手編み」、「親譲り」、「大学出」などもほとん ど主要部動詞にとっての必須項とは思えない。
36 英語の「-ed」に訳されることから(e.g. handmade cake;morning picked strawberry;
two-seated sport car;three-floored apartment)、これらの複合語が受身的解釈を受けるこ とがわかる。(影山 1999:138 も参照)
37 複合語の前項を指す。
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る。(影山 1999:138)
影山の指摘と同様に、筆者は 3.3 の(18)でも「黒塗りの車」という例を挙 げ、「黒塗りの車」はただ「黒く塗った/塗られた車」を意味するだけではなく、
「高級な乗用車」をも意味することを述べた。問題はこれらの「ニュアンス」
を我々は果たしてどこから読み取るのかということである。語彙概念構造によ る記述はそういう付加的意味が記されていないため、我々はせいぜい前項が主 要部動詞のアクション・チェインのどの部分を修飾するのかしか知れず、付加 的意味は個別的な記憶に頼らざるを得ないことになる。
(30)[道具 ACT-ON y]:手作り、石焼き、塩茹で38…
(31)[時間 ACT-ON y]:旬摘み、朝採り…
(32)[結果 ACT-ON y]:固ゆで、平積み、輪切り、黒塗り、3 階建て…
従来のように、付加的意味を語彙化の産物と見れば、問題が解決されそうに 見えるが、しかしそうすると、今度は次に挙げる問題が浮かんでくる。
(33)意味的に+αを感じやすいもの:少年院がえりの先輩39、手作りケー キ、旬摘みお茶、朝採りいちご、平積みの本…
(34)意味的に+αを感じにくいもの:2 人乗りのスポーツカー、7 人がけ の座席、3 階建てのアパート、固ゆでたまご、塩茹で枝豆、輪切り唐 辛子…
直感的に(33)の例には付加的意味が含意されている。「少年院がえりの先 輩」は少年マンガに出たシーンで、マンガの主人公の所属の中学校にある応援 団にいる少年院から帰った先輩を中心として、上級生は新入の団員らに暴力を 振るったり、退部しようとする団員を恐喝したりする。それを止めようとする 新聞部長は立ち上がるが、逆襲をさせられ、散々になる。勝利を収めて祝いの
38 「塩」は「材料」とも解釈できるが、ここでの問題と特に関係がないので、道具だけと見 ておく。
39 『エスパー魔美 4』より
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は一般のものよりおいしいと思われる。被修飾語により、「春摘み」や「秋摘 み」などの表現も可能である。(下線筆者)
(36)「初摘み紅茶 DJ-1」同様、エネルギッシュな若々しい味は健在。春摘 みの特徴である若い味、ほのかな酸味が上品に表現され、時間の経過 とともにカップの中で味が変化していきます。いつまでもその余韻を 楽しめる、存在感ある紅茶をお楽しみください。44
(37)秋摘み新茶は、春の新茶と同じような気候になる“秋分の日”頃に収 穫されるお茶で、秋の新芽の一芯三葉部を中心に手摘みされる非常に 貴重で高級なお茶なんです。45
最後に、「本」を修飾することの多い「平積み」も単に「平たくなるように 積むこと46」を意味するにとどまらず、往々にして新刊やベストセラーを指す ことが多いようである。従って、机の上の「積読」が平たくなっていても、「平 積みの本」とは言いがたい。
(33)に挙げた例は上述したような付加的意味を感じさせるのに、LCS から それらの情報が読み取れないので、筆者はこれらの「言語外の知識」を ICM で 記述することを主張したい。まず最初の「少年院がえり」であるが、これは形 態としては「少年院から帰ること」に対する名づけであるが、意味は一般の人 と裏の社会の人の中に存在する ICM によって変わると考えられる。
(38)ふつうの人に存在する立派な人間としての ICM:物知りで、金持ちで、
犯罪経験を持っていない。
(39)裏の社会の人に存在する立派な人間としてのモデル ICM:逮捕歴/刑務 所経験を持っている。
「立派な人間」をより詳しく定義するのに、さらに緻密な分析が必要である が、差し当たり(38)、(39)のように見てさしつかえないだろう。ここで強調
盛りの時期。」というのがある。
44 http://www.makaibari.co.jp/shopping/tea/haruvintage.html
45 http://www.kanzacha.jp/ec/000920.asp
46 『大辞林』より
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したいのは、我々が同じ「少年院がえり」に対し、なぜ違ったイメージを持っ ているのかは実は我々の中に存在する ICM に左右されるからだということで ある。なお、「手作り」や「旬摘み」などにいたっても、同様な分析ができ、
実際、「旬摘み」や「朝採り」などに対する背景知識を持たない人には、それ らのことばの「真の意味」を必ずしも感じられず、せいぜい形態通りの意味の
「旬に摘んだ/摘まれた」、「朝採った/採られた」としか感じ取れないこともあ り得る。
さて、意味的にプラスαを感じさせやすい(33)が存在する一方で、意味的 にプラスαを感じにくい(34)も存在する。先述したように、もし複合語の付 加的意味を語彙化の産物と見るなら、同じ複合語であるのに、なぜ(33)の例 は語彙化による付加的意味を帯びるが、(34)はそういう付加的意味を帯びな いのかが疑問になる。筆者は百科事典的意味を重視する(14)の語形成モデル を通してはじめて両方の意味が説明できると考える。
まず「2 人乗り」と「7 人がけ」と「3 階建て」から見ると、これらの複合 語の前項はいずれも社会通念にふさわしい数字であり、特に驚くに値しないも のである。ゆえに付加的意味を感じさせないわけである。しかし、いま仮に前 項を現実離れの数字、たとえば「100 人乗り(の車)」や「1000 階建て(のビ ル)」と入れ替えるとすると、奇異な感じがするのではないだろうか。「固ゆで」
や「輪切り」なども、我々の日常生活でよく見られる調理法なので、特に他の 意味を感じず、複合語の意味を形態に表されている「固くゆでる」とか「輪に 切る」と受け止めるのだと思われる。
さて、上では「付加詞+動詞」の複合語を見たが、杉岡の一般化に反して、
内項との複合の場合も形容詞に使われる例も少なからず見受けられる。
(40)箱入りの本、瓶詰めのジャム、泥まみれのシャツ(由本 2009)…
(41)先割れスプーン、皮むきにんにく、CD 付きカルタ、種抜き梅、ラバー 貼りラケット、金張りくす玉、コンクリート敷きの床、タイル張りの 洗面台、先曲がりピンセット…
(42)魚焼き網、枝きりばさみ、蚊取り線香、人斬り包丁 …
(43)恐怖の鉄喰い植物(『ナニコレ珍百景』)、子持ちししゃも、指出し手 袋…
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(40)の複合語は、後項の主要部動詞にとって必須の項(本が箱に入る;ジ ャムを瓶に詰める;シャツが泥にまみれる)との複合でありながら、形容詞に 使えることを由本(2009)でも指摘されている。仮に(40)の複合語の前項が 内項と言えないとしても、(41)の「先割れ」や「皮むき」、「CD 付き」などと
(42)の「魚焼き」と「枝きり」、「蚊取り」、(43)の「鉄喰い」、「子持ち」な どはそれぞれ「先が割れる」、「皮をむく」、「CD が付く」、「魚を焼く」、「枝を 切る」、「蚊をとる」、または「鉄を喰う」、「子を持つ」などを意味することか ら、真の内項だと言える。
(40)、(41)の複合語は受身の解釈が受けられる点で、付加詞との複合と同 じである。
(44)「瓶詰め」=瓶に詰めた/詰められた
「皮むき」=皮をむいた/むかれた
「種抜き」=種を抜いた/が抜かれた
「ラバー貼り」=ラバーを貼った/が貼られた
なお、これらの複合語は一部付加詞との複合の場合と同様に、しばしば形態
なお、これらの複合語は一部付加詞との複合の場合と同様に、しばしば形態