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い。
(89)「7 人がけ」と「3 人乗り」の LCS:
動詞、名詞の場合: [7 人/3 人で ACT-ON y]
形容詞の場合:[[7 人/3 人で ACT]CAUSE[y BECOME [BE FULL OF PEOPLE]]]
(90)「早茹で」の LCS:
動詞、名詞の場合:[x ACT-ON y FAST]
形容詞の場合:[y BECOME QUICKLY [BE BOILED]]
しかし、複合語の意味及び機能が構成によって決まるという杉岡の主張によ れば、上のように一つの形態で二つの概念構造を持つことはまず考えられない。
私見では、語の構成に束縛されずに、新語を創り出すに先立って、意味が決ま っていると考えて初めて上に見た現象が説明できると思う。言い換えれば、あ る行為や出来事(=意味)に対する名づけの必要(機能)があり、そこで既存 の型で新語を創り出すわけである。
(15)の語形成モデルでは、複合語が(物や出来事を含み)ある対象に対す る名づけだと主張している。従って、複合語の統語的特性は複合語の構成に左 右されるのではなく、使われ方と意味によって変わるのだと考える。例えば、
料理の名前としての「茶碗蒸し」はほぼ「卵を茶碗で蒸すもの」としか使われ ておらず、調理法としての「茶碗蒸し」はないので、「~を茶碗蒸しする」は ないと予想される85。それに対し、同じ料理の名前としての「塩焼き」はほか に調理法としても使われるので、(66)で見たように動詞に使われるわけであ る。
3.6 複合語の選択制限
私見では、従来の研究では動詞由来複合語の選択制限を論じるものは皆無で
85 Yahoo! Japan と Google で「茶碗蒸し」に「する」をつけて動詞用法に使われる例を検索し たところ、他動詞に使われる例は僅か 1 件あった。しかも自動詞と同様に、どちらも結果的に
「茶碗蒸し」を作ることになっている。(N. B. 「塩焼き」は動詞に使われた場合は「塩焼き」
にならないこともある。)従って、「茶碗蒸し」の動詞用法は恐らく一般的ではなく、英語の名 詞転換動詞に近いと考えられる。
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ある。広辞苑第五版 CD-ROM 版によれば、選択制限は次のように規定されてい る。
(91)せんたく‐せいげん【選択制限】
〔言〕(selectional restriction) 生成文法の用語。述語が、その主 語や目的語となる語句に課している意味上の制限。一般に、動詞「飲 む」の主語となる名詞句は生物、目的語となる名詞句は液体に限られ る。
(91)に示している通り、選択制限というのはもともと生成文法の用語であ るが、内項と外項の区別やアクション・チェインなどと同様に、理論を問わず 言語一般に見られる概念である。具体例を示すと次の通りである。(すべて斎 藤(2005:122)による。)
(92)息子は一日中友達と積木で遊んだ。
(93)赤ん坊がミルクを飲む。
(94)*石が一日遊んだ。
(95)*赤ん坊が夢を飲んだ。
(96)*山がミルクを飲んだ。
(92)、(93)は適格な文であるのに対し、(94)~(96)が不適格になるの は次の選択制限によるからだと思われる。
(97)「遊ぶ」:主語に<人>という意味特徴を有する名詞句を取る
「飲む」:主語に<人>という意味特徴を有する名詞句、目的語に<
液体>または<物>という意味特徴を有する名詞句を取る(斎藤 2005:122)
さて、複合語の選択制限についてであるが、杉岡(1989)は次の例を挙げ、
複合語における「受け継ぎ」現象を説明している。
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(98)a. アメリカとの意見交換 b. アメリカと意見を交換する c. N_
N[AG, COM]
NP N N
アメリカとの 意見 i 交換[AG, THi, COM]86
(杉岡 1989:170-171)
(98a)の名詞句が(98b)の動詞句の意味解釈を受けるのは、(98a)の複合 語「意見交換」の主要部動名詞(i.e.交換)の項構造が前項の「意見」によ って満たされているからだと杉岡が述べている。換言すれば、もともと主要 部動詞である「交換」は「誰が」、「何を」、「誰と」という三つの項を要求す るが、「何を」に当たる「意見」と複合することによって、「意見交換」とい う複合語全体が要求する項が一つ減り、「誰が」、「誰と」しか要求しなくなっ たわけである。そして、「誰と」に相当する「アメリカ」は複合語の外部に表 示されているから、(98a)と(98b)は同じ意味だと理解されるのである。87一 方、動詞由来複合語においてもこの受け継ぎの現象が見受けられる。
(99)a. 丸太の早切り/丸太を早切りする b. 丸太を早く切る
(100)a. 石けんの手作り/石けんを手作りする b. 石けんを手で(練って)作る
たとえば、(99a)の「早切り」の主要部動詞の「切る」ももともと「誰が」、
「何を」という二つの項を要求するほか、様態、或いは結果などを意味する「ど
86 ここにおけるAG、TH、COM、i はそれぞれ動作主格(agent)、対象格(theme)、相手 格(comitative)同一指標(co-indexing)を示す。
87 ほかに「問題の早期解決」、「開発途上国への資金投入」、「本部への電話連絡」、「ソ連との 経済協力」、「日本からの企業進出」なども挙げられている。
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う」もとることができる。「早切り」は様態との複合であるため、ほかの様態 を意味するものを入れることができなくなるが、(e.g. ??丸太のゆっくりの早 切り)複合語全体は基本的に主要部動詞「切る」が要求する項を受け継いでい ると考えられる。同様に、(100)の「手作り」も主要部動詞「作る」が要求す る項を受け継いでいると考えられるから、(100a)は(100b)に対応する意味 解釈を受けるのである。
上の例を見る限りでは、どうやら複合語の前項以外と同様な意味を持つ要素 を排除すれば、ほかの項(目的語)に対する選択制限は特にないように見える。
このような手段、様態を意味するものとの複合は影山・由本(1997)、影山(1999)
で取り上げられた LCS による記述を通しても、手段表現に対する選択制限がわ かる。
(101)「早切り」の LCS:[[x ACT-ON y FAST] CAUSE [y BECOME [BE SLICE]]]
(102)「手作り」の LCS:[ ]x ACT-ON[ ]y BY-MEANS-OF [HAND]z ↓ ↓ ↓
太郎が 石けんを 手作りする
たとえば、(102)に示された「手作り」の LCS には既に手段あるいは道具を 意味する「手」(HAND)が盛り込まれているため、「手」及びほかの手段・道具 を表す要素が自動的に排除されるのである。(??石けんを機械/手で手作りす る;??石けんの機械/手による手作り)
ところが、筆者の観察によれば、主要部動詞が単独の場合に比べ、程度こそ あれ、選択制限が厳しくなる複合語は決して少なくないことがわかった。
(103)a. ちくわを輪切り88にする(cf. ちくわを輪に切る)
b. ?こんにゃくを輪切りにする(cf. こんにゃくを輪に切る)
(104)a. 本屋で立ち読みする(cf. 本屋で立って読む)
b. ?部屋で立ち読みする(cf. 部屋で立って読む)
88 「輪切り」のような前項が結果を表す複合語は「-する」をつけて直接に動詞に使えないが、
「部屋をきれいにする」、「子どもを医者にする」というような変化構文と同様に、「する」が 項を要求するより、名詞が項を要求すると見ることができる。
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(105)a. お菓子を買い食いする(cf. お菓子を買って食う)
b. ?お弁当を買い食いする(cf. お弁当を買って食う)
(106)a. ウィスキーを水割りにする(cf. ウィスキーを水で割る)
b. ?洗剤を水割りにする(cf. 洗剤を水で割る)
(107)a. 洗濯物を部屋干しする b. ?食品を部屋干しする
(108)a. 手焼き煎餅/煎餅を手焼きする b. ?手焼き魚/?魚を手焼きする
(109)*早食いパスタ(cf. (懐石より)早く食える(食べられる)パスタ)
(103)では同じ「輪切り」であるが、対象格(TH)が「ちくら」から「こ んにゃく」に変わったとたん、適格性が大幅に下がると感じられる。動詞単独 の場合、どちらも「切る」が要求する結果格(i.e. 輪)と共起するので、「輪 切り」が「切る」の項を受け継ぐと同時に新たな意味制約が加わったと考えら れる。(104)の「本屋」と「部屋」という場所格は主要部動詞「読む」にとっ て、必須項ではないが、上に示したように、動作を行う場所として取ることが できる。しかし、様態を表す「立つ」と複合した表現「立ち読み」は「部屋」
を取ることができなくなる。この現象は「輪切り」と同様に、複合語表現「立 ち読み」に新たに意味制約が加えられたことを物語っている。さらに(105)、
(106)、(107)も同様で、様態、道具あるいは材料、場所を意味するものと複 合するに伴い、対象格、目的語に動詞単独の場合では見られない意味制約が加 えられた。(108)と(109)は形容詞であるが、これは 3.5.1 節で述べたよう に、ふつう「煎餅」は機械による大量生産が行われても、「魚」はそのような 焼き方をしないので、「手焼き」は単に「手で焼く」を意味するというより、
「丁寧に一枚一枚おいしく作り上げる」といったイメージが強いのだと思われ る。また、「早食い」は被修飾対象の属性にならないのもそういうものが存在 しないからだと考えられる。(i.e. 3 分で完食できるパスタと 10 分で完食で きるパスタ)
(103)~(109)の複合語の LCS と項構造を次のように記述する。
(110)「輪切り」:[[x ACT-ON y]CAUSE[y BECOME[BE[RING]]] (x, y)
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(111)「立ち読み」:[x ACT-ON y BY-MEANS-OF[STAND]] (x, y)
(112)「買い食い」:[x ACT-ON y BY-MEANS-OF[BUY]] (x, y)
(113)「水割り」:[x ACT-ON y BY-MEANS-OF[WATER]] (x, y)
(114)「部屋干し」:[x ACT-ON y [IN ROOM]] (x, y)
(115)「手焼き」:[x ACT-ON y BY-MEANS-OF[HAND]] (x, y)
(116)「早食い」:[x ACT-ON y FAST] (x, y)
(110)を例にすると、定項の「RING」は動詞「切る」の項構造(x, y, z)
の結果に当たる z の部分であるが、x と y の部分は(主要部動詞の項を受け継 いだ結果として)動詞単独のときのままに保持されている。しかし、項構造及 び LCS による記述は上に見たような意味制約を読み取ることが到底できない。
もちろん、これらは音韻的特徴などから“語彙的複合語”とされているが、問 題は、同じ“語彙的複合語”なのに、なぜ先に見た杉岡(1989)の例は(103)
もちろん、これらは音韻的特徴などから“語彙的複合語”とされているが、問 題は、同じ“語彙的複合語”なのに、なぜ先に見た杉岡(1989)の例は(103)