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日本の西洋料理店におけるタマネギの利用

立 政 治 大 學

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3-4 日本の西洋料理店におけるタマネギの利用

開港に伴い、日本にも、西洋人を相手にする宴会場や西洋人向けの宿泊施設 が必要になる。また、日本が西欧列国との外交をしていくにあたり、岩倉具視

141の側近であった北村重威142は、「日本に西洋人を接待できる施設がないのは国 辱である」143と感じ、欧米賓客を応接できるレストランとホテルの建設を企図 した。そして、明治5 年(1872)に開業したのは「築地精養軒ホテル」であっ た。このホテルのレストランである「精養軒」は関東における西洋料理店の原 点である。「精養軒」は初代料理長にスイス人コックのカール・ヘスを招き、

外国人や上流階級の社交の場として利用されただけでなく、宮内省にまだ洋食 の調理部門がなかった当時の宮内省御用達の西洋料理店でもあった。こうして、

「精養軒」は、明治期における日本西洋料理の発展をリードしてきた存在であ ったとも言える。以下、明治35 年(1902)に精養軒主人が口述した『西洋料 理厨の友』144という本により、日本における西洋料理店でのタマネギの利用を 見ていきたい。

『西洋料理厨の友』は総説と分説から構成されている。総説に煮烹(Boiling)

と脂煎(Frying)の解説が記されており、分説に肉類、スチュー類、ソップ類、

魚類、野菜類、ブッチング類など料理の調理法が書かれている。また、カバー では「精養軒主人口授」と書いていることから、この本は精養軒主人の口述を もととしてできたものである。それに、調理法のところには、原料、原料の分 量、調理時間、手順なとが詳しく記されているため、この本を通じて当時の精 養軒はどんな西洋料理を提供しているのかが分かる。以下、タマネギはどんな 料理に使われているのかを探求する。

A. カレー類

ここでは、「Curry」(カレー)と「Currid Rabbit」(家兎のカレー)にタマ ネギの使用がある。そのレシピは次のように書かれている。

Curry

原料 (一)Cold meat の細片(二)濾清煎脂(dripping)又は「牛酪」 二「オン ス」(我十五匁145二分146)(三)林檎 一個(四)球葱 一個(五)Curry 粉 菓子

141(1825−1883)幕末、明治前期の政治家である。公卿として三条実美とともに明治政府の最 高指導者の位置にあった。

142(1819−1906)明治時代の実業家である。

143 宇田川悟『東京フレンチ興亡史 日本の西洋料理を支えた料理人たち』(角川書店、2008 年)P48。

144 精養軒主人述、服部国太郎編『西洋料理厨の友』(大倉分店、1902 年)。

145 1 匁=約 3.75g。

146 1 分=約 0.375g。

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匙一杯(ママ麵粉 菓子匙一杯(六)鹽。

時間 凡四十五分間。

さてCurry を拵へるには

《第一》 二「オンス」の濾した煎脂(dripping)又は牛酪を「ソース」鍋に入れ 火に架けて温める。

《第二》 一個の球葱の表皮を剥き、俎の上で力所及細かく切り刻む。

《第三》 煎脂(Dripping)が充分熱くなつた時に球葱の細片を入れて鳶色に 煎る、黒焦に成らぬやう気を付けねばならぬ。

《第四》 時々「ソース」鍋を揺り動かして球葱を底に附かせぬ。

《第五》 Cold meat を細かひ片に切り刻む。

《第六》 一個の小さい林檎の表皮を剥き仁を去つて俎の上で極細かく切り 刻む。

《第七》 球葱が充分鳶色に成つた時に濾し取つて煎脂を復「ソース」鍋に移 す。

[註]鳶色になつた球葱は皿に入れて置く。

《第八》 そこでCold meat の細片を「ソース」鍋に入れて両面鳶色に成る迄 煎る。

《第九》 菓子匙一杯のcurry 粉菓子匙一杯の麵粉、林檎の細片と又嗜好に 従つて少許の鹽を加へる。

《第十》 半pint(我一合五勺強)の冷水を注ぎ込み又鳶色に成つた球葱を 入れ復す。

[註]球葱は肉の鳶色に成る時に中に在ると黒焦に成る。

《第十一》 煮える迄は柔かに丁寧に攪回はす、然る後に火の側に卸して半時 間程徐ろに煮る。

《第十二》 盛り方は「ソース」鍋から肉を取り出し熱い皿に入れて其上に注汁 を注ける。

[註]炊た米を Curry と共に盛るが宜しい。147 Currid Rabbit(家兎の「カレー」)

原料 (一)家兎 一頭(二)牛酪 四分一「ポンド」(我三十匁四分)(三)球葱 二個(四)林檎 一個(五)「カレー」粉 食卓匙二杯(六)良き「ストック」 一「パ イント」(我三合148一勺149強)(七)乳酪 一「ジル」(我七勺八才150許)(八)檸檬 一個(九)鹽 茶匙半杯。

時間 凡二時間半。

147 精養軒主人述、服部国太郎編『西洋料理厨の友』(大倉分店、1902 年)P16~19。

148 1 合=約 0.18ℓ。

149 1 勺=約 18ml。

150 1 才=約 1.8ml。

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さてCurrid Rabbit を拵へるには

《第一》 牛酪を四分一「ポンド」程「スチュー」鍋に入れ火に架けて熔かす。

《第二》 球葱を二個、表皮を剥き、俎に載せて、能るだけ細かく切り刻む。

《第三》 この球葱の「細末」をかの牛酪の熔けたのに入れて狐色に脂煎る。

[註]球葱の「細末」が黒焦にならぬやう注意せねばならぬ。

《第四》 家兎一頭(これは既に皮を剥き調理の為めに適當に準備したるも の)を善く洗つて布で乾かす。

《第五》 其の家兎を俎に載せて等しい太サの片々に截る。

《第六》 かの球葱が脂煎つた時に牛酪から之を漉し去る。

《第七》 牛酪は「スチュー」鍋に復へす。

《第八》 そこで肉の片々を入れて「スチュー」鍋を急激火に架け十分間程脂 煎る。

《第九》 其の肉の片々を両面等しく脂煎る為め注意して時々之を覆へさね ばならぬ。

《第十》 林檎一個の皮を剥き仁を切り出して俎の上で成るべく細かく断む。

《第十一》 かの肉が脂煎つた時には「カレー」粉、食卓匙二杯と鹽、茶匙半杯 とを之に加へて火の上で五分間程能く攪き和ぜる。

《第十二》 然る後にかの球葱の脂煎と林檎の細末と一「パイント」の良き

「stock」とを入れる。

《第十三》 「スチュー」鍋を火の傍に卸して二時間程緩火て煮る。

《第十四》 其の後に一「ジル」の乳酪を攪き和ぜる。

《第十五》 一個の檸檬を取り、布で綺麗に拭ふて鋭い小刀で成るべく薄く皮を 剥く。

《第十六》 其の檸檬を両半に截つて其の液汁を濾器から「スチュー」鍋に搾り 込む。

《第十七》 盛り方は「スチュー」鍋より肉の片々を取り出して熱い皿に綺麗に 列べ其の上に注汁を注ける。

[註]Boiled Rice(炊米)を此の Curry と偕に盛るべし。151

以上のことから、タマネギはここで「注汁」152の具として使われていること がわかる。また、表皮があり、煎ると鳶色になり、焦げやすいなどの特徴が見 える。また、ここのカレーは馬鈴薯、人参、タマネギ三品を使った現在の洋食 のカレーと違うこともうかがえる。このレシピによると、カレーの調理法は西 洋の調理法を使っているが、註に「炊た米をCurry と共に盛るが宜しい」と書い ていることから、その食べ方は西洋料理より洋食に近づいていることが分かる。

151 精養軒主人述、服部国太郎編『西洋料理厨の友』(大倉分店、1902 年)P34~37。

152 イギリス風カレーのソースである。

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B. 肉類

ここでは、「Savoury Hash」(香味細截肉)と「Sea Pie」(牛肉のパイ皮包 み焼き)にタマネギが使用されている。「Savoury Hash」(香味細截肉)のレ シピでは、

Savoury Hash(香味細截肉)

原料 (一)鑵詰羊肉 一「ポンド」半(我百八十二匁四分)(二)牛酪 一「オン ス」(我七匁六分)(三)麵粉 半「オンス」(我三匁八分)(四)球葱 半個(五)西 洋芹(Parsly) 一枝(六)胡椒及鹽(七)mashroom ketchup 菓子匙一杯。

時間 凡四十五分間。

さてSavoury Hash を拵へるには

《第一》 牛酪一「オンス」を「ソース」鍋に入れ火に架けて熔かす。

《第二》 球葱半個を取り其の表皮を剥き之を數枚に截る。

《第三》 この球葱をかの牛酪に入れる。

《第四》 又麵粉半「オンス」を之に混ぜ合はして一二分間に總べて鳶色に 脂煎る。

《第五》 羊肉を一「ポンド」半程馬口鐵詰から取り出す。

《第六》 此のhash に肉汁を拵へる為め半「パイント」(我一合五勺餘)の熱 湯で鑵の内を漱き出すべし。

《第七》 此の肉汁を麵粉と「バター」との在る彼の「ソース」鍋に注ぎ入れて 煮えて濃くなるまで善く之を攪回はす。

《第八》 そこで温を保つ為に火の傍に其の「ソース」鍋を卸す。

《第九》 西洋芹(parsley)一、二枝を取り茎を去つて其の葉を俎の上で細く 刻む。

《第十》 かの肉を適當な片に截つて各の片の上にこの刻み葉を若干と少 許の胡椒及鹽とを撒り布ける。

《第十一》 此の肉を彼の肉汁の「ソース」鍋に入れて凡五分間程温める。

《第十二》 そこで細截肉mashroom ketchup 菓子匙一杯程此の肉汁に注ぎ込 む。

《第十三》 盛り方はかの肉を熱い皿に入れてこの肉汁を注きかける。153 と書いている。つまり、これは「ハッシュドマトン」のレシピである。以上の レシピによると、タマネギはバターで鳶色になるまで煎ると調理されている。

また、ここでタマネギは肉汁を調味する調味料として使われている。

また、「Sea Pie」(牛肉のパイ皮包み焼き)のところでは、

153 精養軒主人述、服部国太郎編『西洋料理厨の友』(大倉分店、1902 年)P23~25。

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(ママ) Pie

原料 (一)牛臀肉片 二「ポンド」(我二百四十三匁二分)(二)球葱 二個(三)

小胡蘿蔔 一本(四)胡椒及鹽(五)麵粉 四分三「ポンド」(我九十一匁二分)

(六)凝脂 四分一「ポンド」(我三十匁四分)(七)焼麵粉(baking powder)茶匙 一杯。

時間 凡二時間。

さてSea Pie を拵へるには

《第一》 牛臀肉片二「ポンド」を俎に載せて鋭い庖刃で數枚に之を截る。

《第二》 二個の球葱を取つて其の表皮を剥き成るへく薄く之を截る。

《第二》 二個の球葱を取つて其の表皮を剥き成るへく薄く之を截る。