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味はより広く庶民までも知るところとなり68、肉料理を食べる機会が増えるに 伴い、肉と相性がいいタマネギも肉料理にかかせない素材として普及し始めた。
つまり、食べ物は着る物とちがって見栄や流行ではなく、味と値段で選ばれ、
タマネギのような大衆の好みに合ったものはいつしか日常生活のなかにとけ 込んでいったのである。
4-3 洋食屋におけるタマネギの利用
明治の後期から大正にかけて、本格的な西洋料理店にかわり、洋食屋が台頭 してくる。西洋料理店と違い、洋食屋は比較的安価な「洋食」を提供し、一般 庶民向けの料理屋である。一般庶民が洋食屋に飛びついた理由は、御飯に適応 したおかずが提供されていること、気軽くな普段着のままで入れること、ナイ フやフォークを使わずに箸で食べれること、手の届く値段だけで西洋風料理を 味わえることなどであった。また、大正期になると、東京の洋食屋は急速に普 及して1500 店にも達した69。
ここでは、木田元次郎が明治28 年(1895)に東京銀座に開店した「煉瓦亭」
を取り上げ、洋食でのタマネギの利用を見ていきたい。
「煉瓦亭」という店名の由来は、明治5 年(1872)の大火事で銀座の街が消 失したことにより、明治政府が、頑丈で燃えない煉瓦で道路を舗装し、建物も 煉瓦造りにしたという。そのため銀座は「煉瓦地」という愛称で呼ばれるよう になり、店の名前に取り入れられた。
1979 年に刊行された小冊子『プロ自伝 おかず』の中で、煉瓦亭二代目の 木田孝一は明治三十年代初めについて、
なにしろ、牛肉を食べるときには神封じをする時代ですから、売れなくて売れな くてずいぶん苦労したようです。そのうち、一寸バターのにおいがするからって 寄った明石町の外人が、非常にチープで量があるとすっかり気に入り、仲間に 宣伝して連れてきてくれたのです。だんだん近所の店の人も食べに来てくださ るようになって、ようやくうれてきたのだそうです(中略)、総体に、日本人は外 人と違って香辛料に対する認識が薄いもの。ゆず、しそといった任本的な香り にあまり煩くないのに、いわゆる香辛料にはなじみがなかったせいか、非常に 神経質です。親爺が外国風の食事の普及に苦労したのもそこにあった訳で、
どうしたら日本人になじめるか苦労しました。70
と記しており、創業者の苦労がにじみ出ている。つまり、当初は西洋料理店を
68 『食道樂』では「ビフテキ」について「成程柔くって実に美味しい」と述べている。(村井弦 斎『食道樂』第2 冊 夏の巻(報知社、1903 年)P161。)
69 岡田哲 『とんかつの誕生 明治洋食事始め』(講談社、2000 年)P203。
70 同上、P167。
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カツサンドウイッチ ハムサンドウイッチ
ハンバーグサンドウイッチ ビーフサンドウイッチ
「煉瓦亭」のホームページより引用
以上の表によると、煉瓦亭が提供しているのは西洋料理ではなく、洋食であ ることが分かる。以下、タマネギが使用されている料理を見ていきたい。
A. カレーライス
「煉瓦亭」の「カレーライス」は豚バラの塊と大きめに切られたタマネギを 入れたカレーソースをご飯の上にかけるものであり、薬味は福神漬けとラッキ ョウである。
「煉瓦亭」のホームページより引用
3-3-3 の『軽便西洋料理法指南』の「ライスカレー」72と比べると、具材の大 きさは細切れから塊になり、タマネギの形も見えるように残した。また、『軽 便西洋料理法指南』では薬味は生タマネギを使ったが、ここでは福神漬けとラ
72「小さき銅鍋へバタ少し入れ、其中へ玉葱を輪切にして又細かニ刻み入れかき廻はしながら煮て 是にメリケン粉少し入れ能く交ぜ合せ更にカレー粉を適宜に入れ、鹽胡椒少し計り並に砂糖ニて味 を附け其中へソップとシチウのソースとを少しづゝいれ薄めニし煮熟を待ち毛篩ニて濾すべし。右の 汁へ鶏肉又は牛肉を細かに切り入れ能く煮て温き飯を皿へ盛り右の汁肉ともに掛け出すべし附合 せは別ニなし薬味として玉葱を輪切りにし、生の儘附け玉子を煎り共に添へてよし。」(マダーム・
ブラン述、松井鉉太郎編『軽便西洋料理法指南 実地応用 一名·西洋料理早学び』(新古堂書 店、1888 年)P28~29。)
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ッキョウを使った。これは日本人が生タマネギの辛味に慣れないから、生タマ ネギの代わりに昔から馴染んできた漬物をつかったのではないかと考えられ る。
B. チキンライス
「煉瓦亭」の「チキンライス」はご飯をパターで炒め、チキン、タマネギ、
グリンピース、マッシュルームなどの具を入れ、ケチャップで味付けしてパセ リをふりかけたものである。
「煉瓦亭」のホームページより引用
4-2-3 の『西洋料理教科書』の「チッキン、ウイズライス」73と比べると、調 理法は煮るから炒めるになり、味付けはトマトソースからケチャップになった。
これは日本では炊いたご飯があるから、米から調理しなくてもいいということ ではないかと考えられる。また、トマトソースの代わりにケチャップを使った のは、時間の節約ではないかと考えられる。また、写真によると、タマネギの 形が残っていることから、ここでタマネギは具として使われていることがわか る。
73「雛鶏肉一羽分を適宜に切り鍋に入れ、其肉の半分目位まで熱湯を入れ、洗ひ米五勺位と鹽茶匙 一杯を加へ漫火で肉の軟くなるまで煮、之を米と一緒に皿に盛り、トマトソースをかけて出すので す。」(桜井ちか子『西洋料理教科書』(紫明社、1910 年)P58。)
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C. ハムライス
「煉瓦亭」の「ハムライス」はご飯をパターで炒め、ハム、タマネギ、グリ ンピース、マッシュルームなどの具を入れ、上にハムをのせてパセリをふりか けたものである。
「煉瓦亭」のホームページより引用
「ハムライス」の調理法は「チキンライス」とほぼ変らない。また、4-2-1 の『実用新料理法』の「ハムライス」74と比べると、『実用新料理法』のご飯 の上にハムと人参を入れた汁をかけたものと違い、「煉瓦亭」の方はチャーハ ンに近い。
74「(分量)ハム 七十匁、白米 二合五勺、バター 中匙に一杯、スープ 一合五勺、食鹽 少量、胡 蘿蔔 一本。
(調理法の手順)右記のハムを俎上にとり、なるべく細小に截りましたらお白米を桶中に 加
(ママ)
れ、ほど よく水を加へてよく洗ぎ、直ちに笊に上げて水氣を斷り、フライ鍋に右記分量のバターを 加
(ママ)
れて火 に架け、よく沸騰したらば白米を 加
(ママ)
れてかきまはし、ほどよく色がつきましたらお鍋を下ろし置き、
今度は胡蘿蔔の両端を截去、皮を剝きまして縦に二ツに割り、芯を去りまして細小な賽形に截り、清 水と共に別鍋に 加
(ママ)
れて軟かに茹で終げ、笊にかけて水氣を斷つて置き、今度はフライ鍋に又も中 匙に半分ほどのバターを 加
(ママ)
れて火に架け、よく煮溶けてまいりましたらハムと胡蘿蔔とを 加
(ママ)
れて 手早くかきまはし、一合五勺ほどのスープを加へましてほどよく鹽を加へ、味の加減をいたして煮て 置きます、仍で御飯を少々硬めに炊き終げましてカスター型又湯呑茶碗の中に詰め、手早くお皿中 にぬきとり、その上部より右記の煮ました材料を注けて供します。」(赤堀峯吉等著『実用新料理法 日本西洋支那』(盛林堂、1912 年)P218~219。)
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D. ハヤシライス
「煉瓦亭」の「ハヤシライス」は牛ヒレ肉とタマネギをデミグラスソースで 煮てご飯の上にかけるものである。
「煉瓦亭」のホームページより引用
3-3-3 の『軽便西洋料理法指南』の「ハヤシビフ」75と比べると、「煉瓦亭」
の「ハヤシライス」のタマネギはトロトロになるのではなくて、シャキシャキ している。つまり、「煉瓦亭」の「ハヤシライス」はタマネギをあまり煮込ま なく、具材として使っている。また、以上のことから、ハヤシライスはハヤシ ビフから変化してきたことが推測できる。現在ではご飯料理として定着してい る。
E. 元祖オムライス
「煉瓦亭」の「元祖オムライス」は溶き玉子にご飯と牛挽肉、人参、タマネ ギ、マッシュルーム、グリンピースなどの具を混ぜて焼いたものである。『銀 座ニュース新聞』の記事に煉瓦亭三代目の木田明利は「元祖オムライス」につ いて以下のように述べている。
明治33 年(1900)の話ですが、コックさんたちが忙しくて、座ってご飯を食べて いられない時に、スプーンで片手で食べながら、鍋を動かしたりしているのを、
75「ロースビフを薄く五分位の大さに切り又玉葱の外皮を去り輪切二刻み牛酪少しを鍋へ入れ共に 煎り附け煮熟たるを度とし右の中へソップ澤山入れ又スチウのソース少し入れ煮熟を待ちパンの揚 げたるものを載せ出すべし。」(マダーム・ブラン述、松井鉉太郎編『軽便西洋料理法指南 実
75「ロースビフを薄く五分位の大さに切り又玉葱の外皮を去り輪切二刻み牛酪少しを鍋へ入れ共に 煎り附け煮熟たるを度とし右の中へソップ澤山入れ又スチウのソース少し入れ煮熟を待ちパンの揚 げたるものを載せ出すべし。」(マダーム・ブラン述、松井鉉太郎編『軽便西洋料理法指南 実