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軍隊食におけるタマネギの利用

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第 4 章 日本の洋食におけるタマネギの利用

明治以降、フランス料理を中心とする西洋料理が皇室や上流階層の正餐のメ ニューを飾ると同時に、西洋料理を日本化した洋食も登場した。洋食は明治以 降にフランス料理、イギリス料理など西洋発祥の料理を受容する過程のなかで、

日本人の舌や好みに合せて改良された料理である。1

以下、タマネギは洋食にどのように利用されているのかを探求したい。

4-1 軍隊食におけるタマネギの利用

洋食を始めるきっかけとなったのは、明治政府が推進した富国強兵の一環で、

軍隊において兵隊の腕力や体力を強化する目的で提供される軍隊食までもが 西洋化されたことがあげられる。皇室のフランス料理とは別に、日本海軍はイ ギリス海軍を手本にして早くから西洋式の食事が取り入れた。ところが、当時 の日本軍は地方農村部で育った集団で、米飯や日本食で生活してきたため、異 質な西洋式の食事に対して拒否感を出した人たちもいた。このため、西洋式の 食事を自分たちの口に合うように改良された。改良する方法には、慣れてきた 在来の材料を取り入れたり、パンの代わりにご飯を皿に盛ったり、洋風材料を 醤油など在来の調味料で調理したりするなどがある。ここでは大正7 年(1918)

の『海軍五等主厨厨業教科書』2と大正9 年(1920)の『軍隊糧食調理法 炊 事顧問』3(以下『軍隊糧食調理法』と略す)を取り上げ、日本化した西洋料 理=洋食でのタマネギの利用を見ていきたい。

4-1-1 『海軍五等主厨厨業教科書』におけるタマネギの利用

『海軍五等主厨厨業教科書』は大正7 年(1918)に海軍教育本部が編集した 厨業の教科書である。その本の要旨に次のように書かれている。

一、本教科書ノ教習ハ總テ實地ニ據ルヘク實地ニ據リ難キモノト雖出来得ル 丈ケ實習中適切ナル機会ニ於テ口授スルモノトス。

一、調理方法ハ和洋ヲ合セ百餘種ヲ掲ケタルヲ以テ練習期間內ニ全部實習ハ 望ムベカラス依テ時間ノ許ス範圍ニ於テ一類中適宜ノ種目ヲ選ミ實習ヲ行ヒ其 ノ中ノ他ノ種目ハ之ヲ基礎トシテ口授スルモノトス。4

つまり、この教科書の教習は全部実行すべき、たとえ実行できないものでも、

1 宇田川悟『フランス料理二大巨匠物語』(株式会社河出書房新社、2009 年)P29。

2 海軍教育本部編『海軍五等主厨厨業教科書』(帝国海軍社出版部、1918 年)。

3 秋穂益実『軍隊糧食調理法 炊事顧問』(東京割烹女学校出版部、1920 年)。

4 海軍教育本部編『海軍五等主厨厨業教科書』(帝国海軍社出版部、1918 年)。

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和物類 烏賊ノ木ノ芽和 筍ノ白和 蒟蒻ノ白和 浸シ物類 菜浸し

煮浸し

『海軍五等主厨厨業教科書』より作成 以上の表によると、西洋料理では、タマネギの使用率は約40%であり、日本 料理では、「牛肉ト野菜ノ煮込」5にタマネギが使用される可能性6がある以外、

タマネギの使用はなかった。つまり、当時にタマネギはまだ西洋料理の野菜と みなされると判断できる。また、『海軍主計兵調理術教科書』7の昭和17 年(1942)

の改正版では、日本料理にタマネギも使用されるようになった。この部分につ いてはまた和食の節で述べる。以下、タマネギが使用されている洋食化の料理 についてみていきたい。

まず、「オムレット」では次のように書いている。

玉葱ヲ細末ニ切リ「フライパン」ニ「ヘツト」少量ヲ入レ沸騰シタルトキ之ヲ入レテ 煎リ其レニ挽肉ヲ加ヘ煎リ置キ別器ニ一人鶏卵二個ノ割ニテ割リ能ク攪拌シ 前ノ材料ヲ混シ鹽胡椒ニテ風味シ之ヲ煎鍋ニ「ヘツト」少量ヲ沸騰セシメタル中 ニ入レ焼クモノナリ附合セハ用ヒス。

注意此ノ料理ハ単ニ卵ノミヲ用ヒテ作ル場合、之ニ玉葱ノミヲ入ルル場合、肉ノ ミヲ入ルル場合、玉葱ハムヲ入ルル場合、ハムノミヲ入ルル場合等アリ何レモ

「オムレット」ト云フ。8

つまり、これは3-3-3 の『軽便西洋料理法指南』に紹介された洋食の「肉入 オムレツ」のレシピである。また、フランスの権威ある料理の本「ラルース・

ガストロノミー辞典」(LAROUSSE GASTRONOMIQUE)によると、オムレ

5「材料 牛肉、野菜類、醤油、砂糖。

此ノ料理ハ主トシテ多人数ニ供スル方法ナリ先ツ牛肉ヲ細ニ切リ野菜モ細ニ切リテ洗ヒ其レヨリ牛 肉ヲ鍋ニ入レ暫ク煮テ白色ヲ呈スルニ至リシトキ砂糖ヲ加ヘ蓋ヲ被セテ更ニ暫ク煮タル上醤油ヲ入 レテ味ヲ付ケ沸騰スルヲ待テ野菜ヲ混ス。」(海軍教育本部編『海軍五等主厨厨業教科書』(帝国 海軍社出版部、1918 年)P54。)

6「牛肉ト野菜ノ煮込」のレシピにどんな野菜が使われているのか書かれていないが、大正9 年(1920)の『軍隊糧食調理法』の「肉野菜雑煮」では「鍋に一メータの水を入れ直に牛肉を 加へ三十分間位煮て馬鈴薯、牛肉( マ マ )、人参、玉葱を加へ軟かく煮て砂糖、醤油を加へて煮汁の詰るま で煮る。」と書いており(秋穂益実『軍隊糧食調理法 炊事顧問』(東京割烹女学校出版部、1920 年)P158。)、「牛肉ト野菜ノ煮込」のレシピとほぼ同じなので、「牛肉ト野菜ノ煮込」の野菜 類にタマネギが使われている可能性がある。

7 海軍省教育局『海軍主計兵調理術教科書』(海軍省教育局、1918 年)。

8 海軍教育本部編『海軍五等主厨厨業教科書』(帝国海軍社出版部、1918 年)P95。

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ツのレシピは「卵8 個をといて精製塩をふり、胡椒をふるなら、粒胡椒をひいて使 う。熱したフライパン(テフロン加工が望ましい)に25~30gのバターを溶かして卵を 流し入れてフォークで混ぜる。卵がかたまりはじめたら卵の端をフライパンの中心に 寄せるようにしてまとめる。できあがったらあらかじめ暖めた皿に盛り、照りをつける ためにバターをひとかけ乗せる。卵の中にミルクを大さじ2~3 杯、または生クリー ムを大さじ1 杯混ぜてもよい。」9と記されている。つまり、正当なオムレツは卵 だけ使っている。以上のことから、前述したひき肉、タマネギなどの具材を入 れたオムレツはアレンジしたオムレツであることが分かる。また、このオムレ ツをご飯にかけたら、洋食のオムライスになる。即ち、オムレツの洋食化の第 一歩と言える。

また、「シチュウ」では次のように記している。

牛肉ヲ一個十匁10位ニ切リ、鹽、胡椒ヲ為シ煎鍋ニ「ヘツト」少量ヲ沸騰セシメ タル中ニ入レ、強火ニカケ一寸煎リ肉ヲ出シ其ノ煎鍋ニ少シ「ヘツト」ヲ加ヘ麥 粉ヲ入レ焦ケサル様ニ攪拌シ狐色ニナル迄煎リ然ル後「スープ」11ヲ徐々ニ加 ヘ敏活ニ混和シ「ドミグラス、ソース」ヲ作リ之ヲ汁鍋ニ移シ之ニ前ノ肉及香料ト シテ「ルリー」ノ葉、「セージ」、「タイム」等各二本位ヲ縛リ入レ煮込ミ置ク次ニ 馬鈴薯、人参ノ皮ヲ去リ形ヲ整ヘ又成ルヘク少サキ玉葱ノ上皮ヲ取リ凡テ能ク 洗ヒ前ノ肉ノ中ニ入レ充分ニ煮込ムヘシ出来上リ供卓スル前ニ鹽、胡椒ニテ 味ヲ付ケ皿ニ肉二個、馬鈴薯、人参三個、玉葱一個ヲ盛リ、「ソース」ヲ注キ供 卓ス。12

「皿ニ肉二個、馬鈴薯、人参三個、玉葱一個ヲ盛リ」と書いていること、タマ ネギの形はまだとけていないことが分かる。つまり、タマネギは西洋料理のよ うなシチューソースのベースとして使われているのではなく、シチューの具材 として使われている。また、このレシピに使われている馬鈴薯、人参、タマネ ギ三品は現在の洋食の「シチュー」の主要な具となっている。つまり、この「シ チュー」は現在の洋食の「シチュー」の原型と言える。

また、「ミンチ、コロッケ」では次のように書いている。

此ノ料理ヲ「マーシ、ポテト」ニ包マス肉、玉葱ヲ煎ルトキニ少シ餘分ニ麥粉ヲ

9 小菅桂子『にっぽん洋食物語大全』(講談社文庫+ α、1994 年)P66。

10 1 匁=約 3.75g。

11「『スープ』に用フル牛肉ハ屑肉、筋肉及脛部ヲ用フ右ノ内脛部ハ安価ニシテ最良キ美味ナル『ス ープ』ヲ得ヘシ何レノ肉ヲ用フルモ二寸四方位ノ大サニ切リ之ヲ汁鍋ニ入レ肉一斤ニ五、六合位ノ割 ニテ水ヲ入レ尚人参、玉葱又ハ『セロリ』等ノ屑ノ部分ヲ加ヘ沸騰セシムヘシ、然ル後之ヲ弱火ニ移 シ五、六時間煮沸スヘシ充分煮出シタル後裏漉ノ如キモノニ清潔ナル布ヲ敷キ前ノ煮汁ヲ漉シテ得 タル羹汁ハ即チ清キ『スープ』ナリ。」(海軍教育本部編『海軍五等主厨厨業教科書』(帝国海軍社 出版部、1918 年)P84~85。)

12 海軍教育本部編『海軍五等主厨厨業教科書』(帝国海軍社出版部、1918 年)P105~106。

‧ 國

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加ヘ堅キ加減ニ焦リ之ヲ丸メ前法ニ依リ揚ケタルヲ「ミンチ、コロッケ」ト云フ13 3-3-3 の『軽便西洋料理法指南』で述べた「コロッケ」のレシピに牛肉と豚 肉を交ぜた肉で作ったコロッケと挽肉、タマネギ、馬鈴薯を混ぜ合わせて作っ たコロッケ二種類が紹介されたが、このレシピによると、前者のコロッケがな

加ヘ堅キ加減ニ焦リ之ヲ丸メ前法ニ依リ揚ケタルヲ「ミンチ、コロッケ」ト云フ13 3-3-3 の『軽便西洋料理法指南』で述べた「コロッケ」のレシピに牛肉と豚 肉を交ぜた肉で作ったコロッケと挽肉、タマネギ、馬鈴薯を混ぜ合わせて作っ たコロッケ二種類が紹介されたが、このレシピによると、前者のコロッケがな