國
立 政 治 大 學
‧
N a tio na
l C h engchi U ni ve rs it y
3-3 日本の西洋料理書におけるタマネギの利用
明治以後、西洋崇拝の風潮に従い、欧米諸国の料理や飲食風俗を伝える西洋 料理書が次々と刊行された。その内容により、外国人からの聞き取りによる西 洋料理導入期の料理書と家庭向けに書かれた日常の料理を扱った家庭向け料 理書の2 種類に大きく分類できる100。ここでは、明治19 年(1886)の『西洋 料理独案内』101、明治19 年(1886)の『洋食料理法独案内』102、明治21 年(1888)
の『軽便西洋料理法指南 実地応用 一名·西洋料理早学び』103(以下『軽便 西洋料理法指南』と略す)という外国人からの口述をもとにした料理書でのタ マネギの利用を見ていきたい。
3-3-1 『西洋料理独案内』におけるタマネギの利用
『西洋料理独案内』の自序のところに、次のように書いている。
文明開化ノ域ニ進ミ隨テ日常ノ衣食住ノ改良モ大ニ行ハレ洋食ノ如キモ其ノ之 レ用ユルモノ益々多キニ至レリ(中略)、其ノ料理法及ヒ食事法ニ至リテハ之レ ヲ熟知スル者最モ稀少ニシテ適マ外国人ト会食スルノ際敬禮ヲ失シ不體裁ヲ 為ス等屢々之アリ実ニ愧ツヘク又嘆スヘキノ一事ナリ(後略)。104
つまり、作者は当時に西洋料理の料理法と食事法を熟知する人が少ないため、
この本を作った。また、カバーでは「英国ヲルラントセリヤ氏口伝、日本西村弘 著」と書いていることから、この本は英人の口述をもととしてできた料理書で あることが分かる。この本は礼式、料理法、食事法という三章から構成されて いる。ここではタマネギはどんな料理に、どんな調理法で使われているのかを 探求する。
まず、精進料理の部には「白葱煮料理」と「葱汁料理」という二つのタマネ ギ料理がある。「白葱煮料理」では、
能く揃ふたる葱を選ヒ其の上皮を取りて一時間計りも鹽水にひタし置き後ち之 を揚げて和かになるまで牛の乳を交ぜたる水にて煮上げ深き皿へ移し上より 解かしたる牛酪を掛けるなり。105
100 東四柳祥子、江原絢子「解題 近代日本の料理書(1861~1930)」(『東京家政学院大学紀要』
第43 号、東京家政学院大学、2003 年)。
101 ヲルラントセリヤ述、西村弘編『西洋料理独案内』(東雲堂、1886 年)。
102 パイン・ベリジ述、松村新太郎編『洋食料理法独案内』(友文舎、1886 年)。
103 マダーム・ブラン述、松井鉉太郎編『軽便西洋料理法指南 実地応用 一名·西洋料理早学 び』(新古堂書店、1888 年)。
104 ヲルラントセリヤ述、西村弘編『西洋料理独案内』(東雲堂、1886 年)。
105 同上、P24。
‧ 國
立 政 治 大 學
‧
N a tio na
l C h engchi U ni ve rs it y
と書いている。
そして、「葱汁料理」では、
先づ葱の皮を剥きて薄鹽の水の中に三十分計りも漬け其の水にて能く和かに なるまで之を煮で其の汁を取り葱を小さく断り外の鍋にて煮たてたる解き牛酪 の中へ投れ鹽を加へ能く加減してかき廻して煮るなり。106
と記している。この二つのレシピによると、タマネギを料理する時に涙を流す ことを防ぐためのテクニックが見れる。つまり、タマネギを料理する前に、皮 を剥いて塩水に浸すというステップである。そいうテクニックは今でも残って いる。また、「皮を剥く」、「柔らかになる」という特徴から、ここでの葱はタ マネギのことを指していることが分かる。ここでタマネギのことを葱と書いて いるのは当時はタマネギがまだ普及していないからではないかと考えられる。
そして、この史料によれば、タマネギがバターと合うこともわかる。
次に、鳥肉料理の部では、「鶩焼料理」、「鶩油煮料理」、「鳥の膽汁料理」と いう料理にタマネギの使用がある。「鶩焼料理」では次のように書いている。
先づ羽と膓を取り残り毛を焼きて其の頭を切り離し足は熱湯に投れて皮をむし り取り之を背中に縊り付けて其の内に鹽及び麺包の屑粉と微細ニ刻みたる葱 を交ぜ合せたるものを詰め焼き焙ぶりたる上ニて肉汁を掛けるなり。107
つまり、これはパンを詰めた丸ごと家鴨のローストである。ローストという のは食肉などをあぶり焼きや蒸し焼きにする調理法である。ここで、タマネギ はパンと一緒に詰め物として使われている。
また、「鶩油煮料理」では、
鶩の焼き肉を細かに刻みたる葱、胡椒及び鹽を入れて共ニ酢に漬け置き温飩 粉を熟き湯にて解き牛酪をたらし又鶏卵の白身を解かして交ぜ其の中へ前の 肉及び諸ろの品を投れ直ちに引きあげて而して之を沸騰たる油鍋の中へ入れ 鳶色になるを待てて揚げるなり。108
と書いている。つまり、これは家鴨のコンフィである。コンフィというのは食 肉を油脂に浸し、揚げ物にするよりも低い温度でゆっくりと加熱して調理する
106 ヲルラントセリヤ述、西村弘編『西洋料理独案内』(東雲堂、1886 年)P28。
107 同上、P6。
108 同上、P8。
‧ 國
立 政 治 大 學
‧
N a tio na
l C h engchi U ni ve rs it y
調理法である。ここで、タマネギは胡椒、塩と同じく調味料として使われてい る。
そして、「鳥の膽汁料理」では、
鴨又は雁の膽に熱湯を掛けて五分程ニ切りて人参、牛房、葱及び牛肉を交ぜ 又之れに醤油、胡椒水桂子及び肉豆蒄など程能き加減ニ加へて鳥の膽の如く 煮たるまで共に煮てきらを取りて篩子ニてこし之れに温飩粉と牛酪を入れ又能 く煮て此の汁を前の煮たる物にかけなり而して之を用ゆるときは赤葡萄酒を少 し投れべし。109
と記している。これは鴨の肝料理である。つまり、フォアグラ料理である。こ こで、タマネギは付け合せとして使われている。
また、獣肉料理の部では、「豕切身煮料理」、「牛肉油煮料理」、「牛肉汁料理」
という料理にタマネギの使用が見れる。「豕切身煮料理」では次のように書い ている。
豕の油身を除きて凡そ五分程に切り牛酪と刻葱と共に之を鍋に入れ火に掛け て其の葱ノ薄鳶色ニなるを待て焼肉に遣ふつゆ温飩粉、芥子、胡椒及び酢等 を交ぜ合はせてゆッくりと煮るなり。110
つまり、これは豚肉のブレゼである。ブレゼというのは、炒め焼きと蒸しの 二つを取り合わせ、固い鳥獣肉類を蒸し煮にする調理法である。ここで、タマ ネギがバターに合うと、加熱すると色が変わることが分かる。
また、「牛肉油煮料理」では、
先づ牛肉を細かに断り庖丁の背にて能くよく111叩き油煮鍋にて少し牛酪を解 かし之れに右の肉と鹽、胡椒及び薄切りの葱を程能く入れ火に載せて共に茶 色になるまで之を煮其の茶色になるまでを待て牛酪と葱を皿ニ取り揚げて其 の跡へ温飩粉を少し入れ又其茶色になりたる頃ろ鹽を投れ水を少し注き沸騰 て後ち汁を水壷にてこし肉にかけて遣ふなり。112
と書いている。つまり、これは牛肉のコンフィである。ここで、タマネギはバ ターで調味され、牛肉の付け合せとして使われている。
109 ヲルラントセリヤ述、西村弘編『西洋料理独案内』(東雲堂、1886 年)P8~P9。
110 同上、P9。
111 原史料のくり返し記号を一部改めた。以下同じ。
112 ヲルラントセリヤ述、西村弘編『西洋料理独案内』(東雲堂、1886 年)P11。
‧ 國
立 政 治 大 學
‧
N a tio na
l C h engchi U ni ve rs it y
そして、「牛肉汁料理」では、
牛酪を鍋に入れ火に載せ細かに切りし葱を入れて其の鳶色になるを待て牛肉 を投れ胡椒と鹽を鹽梅して水を入れ弱火ニて十五分計り煮たらば又水を入れ て再び一時三十分計り煮てきらを取りて後ち其の汁を篩子にてこすなり。113 と記している。つまり、これは牛肉のスープである。ここで、タマネギは調味 料として使用されている。また、今のようにきらをとるというステップも見れ る。
最後に、魚肉料理の部では、「魚類温飩粉煮料理」、「鯛蒸焼料理」、「鰻汁料 理」という料理にタマネギが使用されている。「魚類温飩粉煮料理」では次の ように書いている。
少計の葱を細かに切りて牛酪と交ぜ合せ鍋に撹れあふりて葱の薄黒くなるを 待て何魚にでも宜しき魚の煮たるものを入れ醤油、胡椒及び煮出し、柚のしぼ り汁等を能き程に加へのろき火ニて軈て三十分程も煮たる後ち温飩粉を少し 散りかけるなり但し蠣汁は凡そ半日程煮るべし。114
ここでは「何魚にでも宜しき」と書いていることから、このレシピはどんな 魚でも使えることが分かる。また、ここでタマネギとバターと一緒に調理する 調理法が見れる。
また、「鯛蒸焼料理」では、
先づ膓を去り洗ひて鹽に一日程も投入置きて後ち皮を取り頭と尾と鰭を切り離 し旱芹菜及び細かニ刻みタる葱、麺包の屑粉などを其の腹に詰め之を縫ひ合 せ其の上を牛酪を以て塗り麺包の屑粉を散りかけて蒸し焼きにするなり。115 と書いている。つまり、これはパンを詰めた鯛のローストである。ここで、タ マネギは前述した家鴨のローストと同じようにパンと一緒に詰め物として使 われている。
先づ膓を去り洗ひて鹽に一日程も投入置きて後ち皮を取り頭と尾と鰭を切り離 し旱芹菜及び細かニ刻みタる葱、麺包の屑粉などを其の腹に詰め之を縫ひ合 せ其の上を牛酪を以て塗り麺包の屑粉を散りかけて蒸し焼きにするなり。115 と書いている。つまり、これはパンを詰めた鯛のローストである。ここで、タ マネギは前述した家鴨のローストと同じようにパンと一緒に詰め物として使 われている。